コロナ禍のヘッジファンド投資

アルファを出すことがヘッジファンドの売り文句であり、アルファがでないこのマーケットにヘッジファンドは必要なし?

 
Image by Erik Mclean via Unsplash

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ヘッジファンドの今年の運用成績は好調なところとそうでないところの差が今まで以上に大きく開いています。多くのファンドがマーケットに非常に苦労させられている現状で、リターンに目を向けてみます。ヘッジファンド全戦略の2021年4月末までの年初来平均リターンは+6.94%、2020年の年初来は+12.67%、株式ロング・ショート戦略はそれぞれ+8.65%、+17.79%でした(ユーリカ・ヘッジ社)。それに対して、MSCI ACWI*は+9.14%及び +16.25%となっています。

 

*MSCI All Country World Indexは、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)が公表するインデックスです。23の先進国と26の新興市場の約3,000社の株式で構成されています。

 

パフォーマンスの数字を見て、よく持ち上がる議論は、高いフィーを払ってヘッジファンドに投資するより、フィーの低いE T Fに投資した方が良いのではないかというものです。しかし、忘れてはいけないのは、ヘッジファンドのリターンは常にフィーを引いた後の数字であると言うことです。また、一年のパフォーマンスを見ただけでそのような結論を出すのは、賢明とは言えません。

 

同じようなリターンの場合、リターンの質に目を向ける必要があります。その理由は、リターンの質によって、どのような環境でどのようなリターンが出るか分析できるからです。ヘッジファンドはマーケットと異なるリターンあるいは、マーケットより良いリターンを求められます。まず、マーケットと異なるリターンを「アルファ」*と呼び、マーケットの出すリターンをベータと呼びます。

 

アルファを出すには様々な手法があります。例えば、株式戦略では、個別株投資からの銘柄選択効果、あるいはセクターのポジションをインデックス比率より高め、低めにすることによるアロケーション効果などをアルフの源泉と呼びます。アルファはヘッジファンドがフィーをとるための付加価値であり、アルファを出すことがヘッジファンドの売りでもあります。では、アルファが出ていない、今のマーケットにヘッジファンドは不要となるのでしょうか。

 

*本来アルファ(α) は、市場リターンを上回る投資戦略の能力「超過収益」を表す為に投資で使われる用語です。ベータ(β)は市場平均リターンに対する感応度を表しますが、ヘッジファンドの世界では市場平均リターンそのものを表すことが多いようです。

 

今回のコロナ禍のように市場に危機が訪れると、市場はリスク・オフの流れとなり、一見「ファンダメンタルズ」と呼ばれるものから乖離した動きをします。コロナというイベントが起こり、世界各地でのロックダウンといったいまだかつてない経済活動の急停止により企業の売り上げは激減し、企業業績の下方修正が相次ぎました。景気を下支えするため、各国の中央銀行及び政府は金融、財政両面から刺激策を打ち出しました。

 

このような危機の下では、ファンダメンタルズ分析から導き出される株価のバリュエーション分析は利かなくなります。急激な利益の減少が起こると、いわゆるPERといった企業収益から割り出される株価のバリュエーション(株価の価値を計る物差しの一つ)が急上昇するからです。通常では割高で買えない水準にも拘わらず、金融政策面では量的緩和による金余りや、金利が低く抑えられていることによる株式というアセットクラスの相対的魅力度、各種景気刺激策による収益の急回復を先読みして足元のファンダメンタルズを無視して株価は上昇します。

 

リーマンショック後の「金融危機」をはじめとした金融市場の混乱は思ったより頻繁に訪れます。では、平常時と危機下といった市場の環境が変化する度ごとにヘッジファンドは戦略を変えるべきなのでしょうか。ヘッジファンドを評価する時、戦略を変更することはマイナスポイントとなります。なぜなら、運用においては戦略の継続性が重視されるということと、下手なタイミングで戦略を変えると後手に回る可能性が高いからです。理想は、どのような環境にも柔軟に対応できるファンドですが、それは現実には存在しません。

 
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