ヘッジファンド投資とは

投資信託よりヘッジファンド投資の方がリスクが高いとされるのは、会社としての体制リスクを指すものであり、運用リスクを差すものではありません。

 
Image by Tamara Gak via Unsplash

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ヘッジファンドが投資信託よりリスクが高いとされるのは、会社としての体制リスクを指すものであり、運用リスクを指すものではありません。

 

ヘッジファンドとは何かと聞かれた時、ヘッジファンドが多様化する昨今はっきりと答えることができなくなってきています。運用以外の(法律的、或いは枠組み的な)面では、1)一般投資家向けファンドの投資信託のような規制の厳しさがない、2)ファンドの国籍がケイマン諸島などキャピタルゲイン税のかからない地域に設定されている、3)1億円以上の資産があるなどの適格投資家以外は購入できない、4)一般的な購入経路は海外に直接送金をする、などルールや制約があります。それでは、運用面に関して言えばどうでしょう。レバレッジ、デリバティブ、ショートなどファンドの戦略により様々な派生商品やテクニックを利用する事なのでしょうか。なかなか一言では言い表せられないのが現状です。

 

元々ヘッジファンドは、英語で言うHNW=High Net Worth(富裕層)や、日本ではあまり知られてないファミリーオフィス(富裕層個人の資産管理会社)が主な投資家でしたが、現在では基金(大学、年金など)や、保険会社などへと主たる投資家が変化しました。この投資家層の変化に伴い、「運用成績」よりも、「名前の知られている」、「運用資産額が大きい」、「体制が整っている」といった大手ヘッジファンド”がヘッジファンドの代名詞となりました。

 

この変化がヘッジファンドの定義を曖昧にしていったように思います。元々ヘッジファンドは、個々のヘッジファンドマネージャーの才能と裁量によりファンドの良し悪しが決定づけられていました。現在では、業務・資産管理部門、コンプライアンス、ガバナンス、社外取締役の有無、監査体制などが重要視されています。この体制重視が悪いと言っているわけではありません。ただ、この傾向がヘッジファンドを始めたい、才能はあるけれどもまだ無名なファンド・マネージャー参入のハードルを高くしている事は確かです。

 

では、本来ヘッジファンドとは、どのようなものなのでしょう?それは、マーケット環境、運用資産額の増加、時間の経過により運用を柔軟に変化させていけるファンドではないでしょうか。例えば、ファンドの運用開始から3-5年成績が良くてもその後リターンの低下が見られるケースが多い理由には、次のような理由があげられます。

 

(1)    ベータによるファクター:ファンド開始時期のマーケット環境が良好であった。マーケット自体が上昇傾向にあった、すなわちベータのリターンが取れていた為ファンドのパフォーマンスも良好であったが、マーケットが下落し始めたのに合わせてパフォーマンスが低迷する。

(2)    資産規模によるファクター:50-100億円の資金での運用に合う戦略であった為、運用資産が大きくなるにつれて運用成績も平均的となる。

(3)    投資スタイルによるファクター:時間の経過に伴いマーケットの環境が変化したため、特定の投資戦略が合わなくなる。例えば2016-2018年にかけては、大型株に比べて小型株が好調であった為、TOPIXショートJASDAQロングの戦略でパフォーマンスを上げることができたが、2019年以降小型株相場が終わるとこの戦略によるパフォーマンスは低下した。

 

また、体制重視への移行はなぜ、いつ起きたのでしょうか。これを考えるには、直近のヘッジファンドと2008年の世界金融危機(サブプライムからリーマンショック)以前のヘッジファンドを比較することが妥当だと考えます。金融危機が起きた2008年は、パフォーマンスが悪化し2009年の回復も遅かったヘッジファンドが多く見られる中、金融危機の引き金になったのはヘッジファンドだったとも言われました。一方、2006年ごろから基金や保険会社のヘッジファンド投資が急増していた為、彼らのリターンの悪化、大きなマイナス・リターンの言い訳にヘッジファンドが挙げられたといえるでしょう。このような背景が一因となり、世界の行政機関が一斉にヘッジファンドに対する規制を厳しくしました。これが、前段で書いた体制重視のヘッジファンドへと変化を遂げた理由だと考えられます。

 

結論:投資はリスクを伴うものですが、投資信託よりヘッジファンドのリスクが高いとされるのは、会社としての体制リスクを指すものであり、運用リスクを差すものではありません。運用リスクは運用者が想定するリスク許容度により差が生ずるものであり投資信託か、ヘッジファンドかといった仕組みの違いによるものではないからです。体制リスクの観点からは、海外のヘッジファンドのように日本の行政機関の手に届かないところにあるファンドに様々なリスクが潜んでいる事は確かです。したがって、ヘッジファンドは、誰にでも簡単にできる投資ではないと言えるでしょう。

 
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