ハーバード大学のファンド運用 ~とても賢いとはいえないエリートたちのやり方~
ミスを積み重ねた20年
93歳で死去したロン・ダニエル氏は1989年から2004年までハーバード大学のファンドの理事長として驚異的な成長を指揮した。彼のリーダーシップの下、大学はインハウス・ヘッジファンド、ハーバード・マネジメント社(HMC)を築き上げた。
ハーバード大学にはファンド運用の苦難の他にも大学の莫大な富に対する他の課題も重なる
HMCはプライベート・エクイティやヘッジファンドなど、当時としては多岐にわたるファンドへの長期投資戦略のパイオニアだった。だがリターンを見るととても成功しているとはいえないのが実情だ。過去20年間、ハーバードのファンドの年率8.8%のリターンは、アイビーリーグ8大学中7位と遅れをとっている。
ハーバード大学ファンドの低迷:ファンドの規模とリターン
この低迷の理由は何か?優秀なファンドマネージャーへの報酬をケチったわけではない。一つは典型的な投資ミスに起因していることが挙げられる。2005年以来、7人のファンドマネージャーが入れ替わっており、マネージャーたちはタイミング悪く戦略を変更し、目先の利益を追い求めるがあまりに高値で買って安値で売るという投資においてやってはいけない典型的なミスを重ねた。
アイビーリーグの20年間の年率リターン
ハーバード大学の運営資金は、寄付金がその多くを占めており、昨年は22億ドル(同校の運営収入の37%)が寄付金によって賄われた。最近、HMCは投資モデル、組織構造、ポートフォリオを大きく変化させた。また、ファンドマネージャーへの報酬についても方針を変え、ファンド全体のリターンに直接連動するようにした。
頻繁にファンドマネージャーやその戦略が変わるハーバード大学のやり方はライバルのイェール大学とは対照的だ。イェール大学の最高投資責任者はデイヴィッド・スウェンセンが36年間務めた。過去20年間、イェール大学の年率リターンは10.9%で、大規模ファンドの上位10%に入る。今世紀初頭にはハーバードのファンドはイェールの200%の規模だったが現在では差が大きく縮まって125%となっている。
さらなる苦難
ハーバード大学にはファンド運用の苦難の他にも大学の莫大な富に対する他の課題も重なっている。連邦政府は私立大学の投資収入に対して毎年数千万ドルの税金を課している。また、寄付金についても風向きが厳しい。寄付者の一部が、大学での親パレスチナ派の抗議活動や反ユダヤ主義への対応を理由に、寄付を停止するというのだ。ハーバード大学は、20年以上抵抗してきたイスラエル関連の保有株式の売却を求める圧力にさらされる可能性が高い。
大学のファンドは一般的な短期リターンを求められるものと違い、数百年という時間軸を持つため、ベンチャー・キャピタルやプライベート・エクイティなどへの投資リスクを許容することができる。ハーバード大学では、ジャック・マイヤーがイェール大学のスウェンセンとともに、このようなアプローチへの変革の先駆者となった。ハーバード・ビジネス・スクール出身のマイヤーの運用成績は素晴らしく、15年間の在任期間中の年率リターンは14.4%だった。しかし彼の好んだ報酬、つまりウォール街のようなべらぼうに高い給与体系は、慈善団体にはふさわしくないと一部の卒業生から批判を浴びたのも事実だった。その後複数のファンドマネージャーが入れ替わり、戦略も方向性が定まらなかったが、2016年12月にナルヴェカー氏が就任。コロンビア大学のファンドからやってきた彼は2008年の金融危機の際に損失を最小限に抑えながら、イェール大学に匹敵するリターンを生み出した実績がある。
理事会の指示で、ナルヴェカーはハーバード大学ファンドを大改革し、230人いた基金のスタッフを半分に減らし、給与体系を見直し、外部マネージャー起用にシフトした。「HMCの基金が大きすぎて魅力的なリターンが得られないという意見をよく耳にするが、同様の運用資産を持つ同業他社の基金が示しているように、基金の大きさはリターンが鈍いことの言い訳にはならない」とナルヴェカー氏はHMCの2018年年次報告書に記した。さらには過去の投資を白紙に戻すことも厭わなかった。以前のマネージャーが好んで採用した天然資源投資について方針を転換し、10億ドル相当の保有資産を帳消しにした。
ヘッジファンド投資
ハーバード大学の年次報告書によると、彼はヘッジファンドへの配分を増やし、2019年6月には保有資産の3分の1に達し、現在もその水準に近い。当時ヘッジファンドは強力なパフォーマンスを提供し、それまでの株式や債券といった投資から分散する方法とみなされていた。ハーバード大学が選んだファンドには、ダニエル・サンドハイム氏のD1キャピタル・パートナーズ、ジェフリー・タルピンズ氏のエレメント・キャピタル・マネジメント、ハーバード大学の元ファンドマネージャーが大学から約4億ドルを得て設立したTPRVキャピタルなどがあった。だがヘッジファンドに関する事実として2018年以降のほとんどの年において、冴えないパフォーマンスと高い手数料を懸念して資金が流出している。
プライベート・エクイティ、化石燃料関連への投資
2017年から2023年にかけて、ナルヴェカー氏はハーバード大学が保有するプライベート・エクイティを16%から39%に増やした。しかし、パブリック・マーケットは最近、プライベート・エクイティよりも良いパフォーマンスを見せている。また、化石燃料関連投資についても成功しているとは言い難い。ファンドは化石燃料関連の新規投資を停止した結果、好調なリターンを逃した。
直近の年次書簡でナルヴェカーは、ハーバードのポートフォリオは多くの同業者よりもリスクを抑えており、リターンが公開市場と相関しないヘッジファンドで成功を収めていると述べている。(ハーバードは10月に、2024年6月までの1年間の運用成績を報告する予定である)。また、給与体系についても緩やかになっている。ただ、過去5年間のナルヴェカー氏の平均報酬660万ドルは、イェール大学のスウェンセン氏500万ドルや、後任者の就任初年度報酬額170万ドルを上回っているのも事実である。就任以来、ナルヴェカー氏はファンドの運用状況を評価を避けるかのような変更を行ってきた:加えて、 2022年、ハーバード大学は、プライベート・エクイティやヘッジファンドを含む保有資産のパフォーマンス開示を取りやめることとした。
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