ヘッジファンドの巨人らを始祖とするスタートアップが続々と誕生

シタデルやミレニアムといった名門ヘッジファンドから独立するということは、良い血統を引き継いでいるということ

かつては、タイガー・マネジメントの創設者ジュリアン・ロバートソン(Julian Robertson)が彼の元から去り、独り立ちしていくファンドマネージャーたちの成長を見守る役割を担っていた。今はシタデルのケン・グリフィン(Ken Griffin)とミレニアム・マネジメントのイジー・エングランダー(Israel Englander)がその立場にいる。

マルチストラテジー・ヘッジファンドの巨人たちは、資金を運用できる人材が不足する中、外部資金に門戸を閉ざしている。そんな中でシタデルとミレニアムのトレーダーたちは、独立するチャンスを掴み、投資家たちは巨額の資金をもって彼らを支援しているという構図だ。

ボビー・ジェイン(Bobby Jain)、ディエゴ・メギア(Diego Megia)、トッド・バーカー(Todd Barker)が経営するスタートアップは、2024年だけで約140億ドルを調達しており、ヘッジファンド調査会社PivotalPathによると「これは記録的なことだ」という。ミレニアムやシタデルから20人近いトレーダーが起業し、今後この争いに加わる見込みだ。

現在進行中の独立、そして移籍は、巨大ヘッジファンドのライフサイクルの変化を示しているといえよう。Woodline Partners、Symmetry Investments、 Holocene Advisors、Alyeska Investment Groupのような成功例が、このトレンドの主要因である。ケン・グリフィンとイジー・エングランダーにとってできることは、このトレンドに抗うか、それとも四半世紀前にジュリアン・ロバートソンが自社のマネージャーたちの独立を応援したときと同じように、それを受け入れるかである。

ジュリアン・ロバートソンは、チェイス・コールマン(Chase Coleman)、スティーブン・マンデル(Stephen Mandel)、フィリップ・ラフォン(Philippe Laffont)といった起業家たちを育て上げた。「シタデルとミレニアムといった名門ヘッジファンドから独立するということは、良い血統を引き継いでいるということ」と、ニューヨークを拠点にヘッジファンドに投資しているCorbin Capital Partnersのチーフ・インベストメント・オフィサー、クレイグ・バーグストロム(Craig Bergstrom)は言う。とはいえ、「高レバレッジのプラットフォームでポートフォリオを運用していたマネージャーが、独立したファンドとしてリターンを生み出すようになるのは難しい。成功するファンドもあれば、そうでないファンドもあるでしょう。」と彼は言う。

100万ドルの成長

シタデルとミレニアムは運用開始以来 S&P 500をアウトパフォームしている

マルチストラテジー・ヘッジファンドは、特定の戦術に集中する「ポッド」間でファンドマネージャーが資金をシフトできるようにすることで、市場の方向性に関係なくリターンを上げる。ミレニアムは30年以上の取引で年間損失は1回だけだが、シタデルは2回だ。どちらもS&P500をはるかに低いリスクで総合的に上回っている。

シタデルとミレニアムのパフォーマンスについてはこちらを参照:『偉大なファンドマネージャーたち』

彼らの高いパフォーマンスは投資家たちを引きつけ、高額の手数料を支払わせる。マルチストラテジーの中には、伝統的なヘッジファンドの手数料「2+20」(資産の2%、利益の20%)を大幅に上回る手数料を要求する会社もある。数百人のトレーダーの人件費だけでなく、その他の経費も投資家に転嫁し、その総額は1ドルの利益に対し60セントという高い割合に達することもある。それでもシタデル、ミレニアム、ポイント72などは、需要に応えられるのに十分高いパフォーマンスを上げるマネージャーを見つけることができている。ヘッジファンド業界が毎年何百億ドルもの資産を流出させる中、シタデル、ミレニアムは顧客に利益を還元し、ポイント72もそれらに続き利益還元を目指す中、運用規模をもコントロールしようとしている。

こうした動きは、トレーダーたちの間に強力な起業家精神を生み出すのに役立っている。ボビー・ジェイン、ディエゴ・メギア、トッド・バーカーのようなベテラントレーダーは、親会社でのキャリアが限界に達したと判断し、新たな挑戦に向けた準備をしている。

起業準備中のトレーダーの一人は、もう若くはないので、今がチャンスだと語った。ヘッジファンドを支援するBorealis Strategic Capital Partners がまとめたデータによると、ミレニアムとシタデルは、過去3年間に独立していったスタートアップの数でトップに立っている。

新興ヘッジファンドはどこから生まれるのか

ミレニアムとシタデルが最も多くスタートアップを生み出している

最近のサクセス・ストーリーの一人はマイク・ロックフェラー(Mike Rockefeller)で、彼はシタデルとミレニアム両社で経験を積み、2019年にWoodline Partnersを立ち上げた。2023年12月、ブルームバーグのポッドキャストで、ケン・グリフィンの下で成功したトレーディングのキャリアを離れるという超重要な瞬間について語り、その決意を「エキサイティングで、難しく、怖くもあったが素晴らしい決断だった」と表現した。

ロックフェラーは、ハイテク界の億万長者ジェフ・ベゾスのアマゾン社設立にまつわる話を引き合いに出した。ベゾスがインターネット企業の立ち上げについて上司でありヘッジファンドの巨人であるデビッド・ショー(David Shaw)にアドバイスを求めたとき、ショーはもしベゾスが今の仕事に満足していないのであれば、アマゾンの起業は素晴らしいアイディアだと言った。ベゾスは自分が80歳になったとき、何をしなかったことを後悔するだろうかと自問し、起業の道を選んだのだった。ベゾスが感じた「今チャレンジしなければ将来後悔するのではないか」という想いが今、新世代のヘッジファンドを育てている。「私たちは、快適さと創造性のどちらかを選ばなければならなかった」とロックフェラーは言う。

Woodline Partnersは現在80億ドルを運用している。他にもHolocene AdvisorsやAlyeska Investment Groupは現在220億ドルを運用している。ミレニアムの卒業生も何人か大成功を収めている。マイケル・ゲルバンド(Michael Gelband)のExodusPoint Capital Managementは、2018年に過去最大のスタートアップとして80億ドルでデビューした。また、フェン・グオ(Feng Guo)も2014年にスピンアウトしてSymmetry Investmentsを設立し130億ドルのヘッジファンドに成長した。

ボビー・ジェイン、ディエゴ・メギア、トッド・バーカー、そして元シタデルのトレーダー、ヨナス・ディードリッヒ(Jonas Diedrich)のIlex Capital Partners(昨年の20億ドルに加え15億ドルを調達中)のようなスタートアップの創業者たちは、業界が4兆ドルの巨大産業になる過程で、長い間頼りにしてきたとらえどころのないアニマルスピリッツを若返らせた最新の人物たちだといえよう。

ヘッジファンドを閉鎖し、マルチストラテジーファンドのEisler Capitalに移籍したショーン・ガンビーノ(Sean Gambino)が、再び独立しBaypointe Partnersを立ち上げた。バリヤスニーとシタデルで15年間働いたジョシュア・ホワイト(Joshua White)は、他の成功者を見てRegents Gate Capitalを設立した。来年の第1四半期までにCrestline Investorsを含む顧客のために10億ドルを運用することを目指している。

2022年に亡くなったタイガー・マネジメントのジュリアン・ロバートソンは、同世代で最も有名なヘッジファンド・マネジャーの一人で、彼の元で仕事を学んだ元従業員であるマネージャーたちを何十人も独り立ちさせた。タイガー・マネジメントの卒業生には、チェイス・コールマン(Chase Coleman)、ジョン・グリフィン(John Griffin)、リー・エインズリー(Lee Ainslie)、アンドレアス・ハルボーセン(Andreas Halvorsen)、スティーブン・マンデル(Stephen Mandel)、フィリップ・ラフォン(Philippe Laffont)などがいる。

タイガーカブス(後継者)たちに資金を与えたジュリアン・ロバートソンのように、マルチストラテジー・ヘッジファンドからスピンアウトしたものの多くは、雇用主や同業者から支援を受けている。そして、その額は大きくなる一方である。実際、ミレニアムのOBであるディエゴ・メギアは、元勤務先からの30億ドルを含む50億ドルを調達している。ミレニアムは、元従業員や外部の人間を資金面で支援することに驚くほど積極的である。330を超える投資チームの約10%が社外投資家であり、その多くが688億ドル規模のミレニアムのために資本を動かしている。ゴールドマン・サックス・グループによると、マルチマネージャー・ヘッジファンドの約70%が外部トレーダーに投資しているという。

また、その評判を利用しているファンドもある。ミレニアムの元共同投資室長というボビー・ジェインの由緒ある経歴は、アブダビ投資庁などの後ろ盾を得て、2018年にExodusPoint Capital Managementが記録的なデビューを飾って以来、最大の資金調達額でスタートするのに役立った。


最大のヘッジファンドスタートアップ

ヘッジファンドが今年調達した資金

一方、Lone Pine Capital やViking Global Investorsなど、タイガー・マネジメントから独立したファンドたち自身もスタートアップを立ち上げている。なかでも、マラ・ガオンカー(Mala Gaonkar)のSurgoCap Partnersとディヴヤ・ネッティミ(Divya Nettimi)のAvala Globalは、女性ポートフォリオ・マネージャーが率いる2大ファンドである。

とはいえ、新しいファンドの立ち上げは確実なものとは言い難い。ヘッジファンド・リサーチ社によると、過去5年間でクローズしたヘッジファンドは3,000を超え、立ち上がったファンドの数を上回っているという。あるシニア・ポートフォリオ・マネージャーは、匿名を条件に語ったが、自分のファンドを立ち上げた後、大手企業に戻ったそうだ。彼は経営しているときは、仕事以外の時間がまるでなかったという。大手企業の内部から独立した運用会社にスキルをそのまま移すことはやはり難しいことなのだ。

マルチストラテジー・ファンドは、トレーダーを厳しいリスク制限の中に置いている。5%の損失で資本が部分的に引き揚げられ、7%の下落で即座に解約されることもある。そのためリスクを避け、大胆な賭けに出ることを嫌がる。

10億ドルのポートフォリオを低ボラティリティで運用し、5%または5,000万ドルの利益を得ることは、マルチストラテジー・ヘッジファンドにとって最も望ましい結果のひとつである。というのも、ヘッジファンドは資本を何倍にもレバレッジしており、自己資金は1億5,000万ドル程度しか投入していない可能性があるからだ。単一戦略を運用するファンドがこれだけのレバレッジを利用することはほとんど不可能であるため、同じレベルの利益でもパーセンテージで見ると顧客にとって十分とは言えないのだ。

シタデル、ミレニアムから独立したファンドたち

シタデルとミレニアムは、いくつかの大型ヘッジファンドを生み出している

さらに、大企業のわかりやすいメリットとして以下のようなものが挙げられるだろう。経営陣へ相談することや、調査のための予算、チーム構築の支援などを得られることは、大きなヘッジファンドでは当然のことと思われがちだ。2008年の金融危機の後、銀行の自己勘定トレーディング・デスクを辞めてヘッジファンドを立ち上げた多くのスターが、その経験を活かしきれず、事業を閉鎖せざるを得なかったという歴史がある。Borealis Strategic Capital Partnersのプリンシパルであるパトリック・シーディー(Patrick Sheedy)いわく、「昨今のスピンアウトは、金融危機後のプロップ・トレーディング・デスクのそれと類似点が多い。流動性の高い特定のトレーディング戦略にとって、プラットフォームは膨大なアクセス、リソース、テクノロジーを提供するが、小規模のスタートアップでそれを再現するのは難しい」。

だからといって、次世代のヘッジファンド・マネジャーたちが躊躇することはない。独立という魅力は強すぎて抗うことはできないのだ。PivotalPathは現在、2024年に起業した、あるいは来年前半までに起業することを目論んでいるトレーダー約150人を追跡しており、そのうちの3分の1近くは、大手マルチストラテジー・ヘッジファンド出身者である。PivotalPathのジョン・カプリス(Jon Caplis)最高経営責任者は、「スタートアップ全体の数は、印象的なものではないとはいえ、質の高いファンドの数はこれまでになく多い」と述べた。

マルチストラテジー・ヘッジファンドは 自身の成功に首を絞められている。

記事(外部サイト)

https://www.bloomberg.com/news/features/2024-09-17/hedge-fund-startups-millennium-citadel-traders-raise-14-billion-for-spinoffs

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