巨大すぎるヘッジファンドは、マーケットを超えられない
数兆ドル規模となったヘッジファンドの見通しは暗い
以前は皆がこぞって投資したがったヘッジファンドだが、今ではよりパフォーマンスの高い投資先に注目が移っている。2024年7月から取引が始まったジェイン・グローバル（Jain Global）も、ヘッジファンド業界の大物ボビー・ジェインが運営する50億ドル規模の新しいマルチ・ストラテジー・ファンドだが、関心がいまいちなことからも明らかだろう。
その理由は、ヘッジファンドのパフォーマンスが低下していることに起因する。リターンの低下には、株価の高バリュエーション、低金利による積極的なショート、そして才能のある人材の欠乏が挙げられる。しかし最も大きな要因は「巨大化しすぎたこと」にある。市場には数百億ドルの資金を効率よく運用して利益を上げる余裕がないのが現実である。
990年以降、大量の資金が流入してきたヘッジファンドが、今の巨額ファンドは大きすぎて儲けにくくなっている。大きすぎると効率よく運用するのが難しくなるが、スリム化をする事によって得られる運用管理費1％成功報酬20％を放棄する事となってしまうため、彼らは売り込み方を変えるだけで根本的な解決策を探していない。
ヘッジファンドといえば、昔は天才ファンドマネージャーたちがスター株を見つけたり、難解な投資戦略を使っていた。今ではその戦略も主流になってしまい、低コストの上場投資信託で誰でも使えるようになってしまった。その結果、ヘッジファンドが投資家に提供したのはリスク調整後リターンである。ヘッジファンドは株式市場よりも変動が少ないことを重要視したが、結果リターンもそれほど高くなかったため、投資家の求めるところではなかった。
その後、ヘッジファンドはマルチ・ストラテジー・アプローチにシフトしていく。ジェイン・グローバルもそうなるだろう。ひとつの戦略が期待外れなら、もっと多くの戦略を持てばいいという考え方だが、これは2000年代にウォール街がリスクの高い住宅ローン債権を大量に保有すれば「安全で収益性が高くなる」と言っていたのと同じくらいリスクがあるとも考えられないだろうか。
実際、マルチ・ストラテジー・ファンドが登場してしばらく経つが、その実績はお世辞にも良いとは言えない。クレディ・スイス・マルチストラテジー・ヘッジファンド・インデックスは、2004年までの10年間に年率10.7％のピークを記録した。しかし、それ以降は下り坂で、5月までの10年間のリターンは年5.2％に過ぎない。
ヘッジファンドは戦略の違いを理由としてS&P500インデックスと比較されることを嫌う。しかし、高パフォーマンスを求めるのであれば、最も割安で投資しやすく、かつ最もパフォーマンスの良い投資のひとつと比較されるのは当然のことである。比べてみるとS&P500は配当も含めて1994年以来、マルチ・ストラテジー・インデックスを年間3.5％ポイント上回っており、10年間では約3分の2の期間で上回っている。
マルチ戦略ファンドのシタデルでは、人材さえいればもっとうまくいくだろうと主張している。 「業界における最も重要な制約の 1 つは、才能の確保です」とシタデルの共同 CIO であるパブロ・サラメ氏は最近のインタビューで述べた。最近では人材を見つけるのが非常に難しくなっているため、シタデルは2017年以来投資家に250億ドルを返還しなければならなかったと言う。
はたしてそれは本当なのだろうか。シタデルは既存ファンドマネージャーにもっと多くの資金を割り当てることができたはずだ。実際、どれほどスターファンド・マネージャーを抱えていたとしても、その巨大な運用資産では多大な利益を生み出すことができなかったからではないか？
2023年までの9年間で、投資家が北米のヘッジファンドに投資した金額はわずか46億ドルというのが突き付けられている現実だ。そんな中でも、規模の制約をよく理解しているファンドがある。史上最高のパフォーマンスを誇るルネッサンス・テクノロジーズのメダリオン・ファンドである（ルネッサンス・テクノロジーズについてはこちらの記事でも触れています https://www.stegacap.com/greatest-jp）。ルネッサンス・テクノロジーズは、その運用能力を約100億ドルと見積もっており、その規模を維持するために定期的に投資家に資金を還元している。もっともこのファンドは制約が多いため、すでに外部の投資家が入る余地はない。
ルネッサンスが外部に提供しているファンドは、競合他社のファンドと比較して何か特別なものかというとそうではない。一部のヘッジファンドは引き続き大きな利益を上げるかもしれない。この業界は現在の規模では、いくら優秀な人材を採用してもこれ以上大きくなれないのだ。
