大手銀行のトレーディング業務を奪う新興企業:下

2010年にはボルカー・ルールに基づき、規制当局が銀行の自己勘定取引(自己資金による賭け)を厳しく制限したことで、地合いは再び変化することになった。銀行がマーケット・メーカーであることに変わりはなかったが、コンプライアンスへの配慮と資本要件により、もはや自由な取引はできなくなっていた。その代わり、銀行は新規株式公開や債券発行などの大口顧客のために、頻度は少ないものの規模の大きな取引に集中するようになった。

こういった事情はトレーディング企業にとって銀行のシェアを奪うことができるチャンスだった。洗練されたアルゴリズムを開発するために博士号やエンジニア軍団を活用することで、これまでとは異なるトレーディング文化が生まれたのだ。

米国株式市場の取引割合(2024年)

一方で投資銀行もこういった新しいやり方には価値がないと考え、自分たちの旧態依然としたモデルが永遠に生き続けると思っていたのだった。

トレーディング企業はすでに債券やローンにも進出している。こういった状況に対抗するために投資銀行は、プライム・ブローカーを通じてヘッジファンドに融資するなど、トレーディング企業にはない商品を提供し続けるべきだという主張もある。また投資銀行は株式公開や債券取引を通じて、証券の新規発行をコントロールしている立場にある。

トレーディング企業がリードする市場は、投資銀行がリーダーだった以前よりもリスクに慎重であると見る向きもある。非上場企業であるため、いかなる損失も創業者や従業員が痛手を被ることになるためリスク管理に優れているからというのが理由だ。

しかし、取引会社の規模が大きくなればなるほど金融システム全体にとっての重要性も増す。2010年に起こった「フラッシュ・クラッシュ」は、米国株から数百億が一瞬にして消し去られ、高頻度電子取引のリスクを露呈した。その2年後、ナイト・キャピタル・グループは不注意から数十億ドルの株式を購入し、後に「ナイトメア」と呼ばれるエピソードで約5億ドルの取引損失を被った。

2014年10月、米国債の激しい「フラッシュ・ラリー」は、この種の出来事がいかに株式市場から波及しているかを浮き彫りにした。

トレーディング企業の監視強化を求める声が大きくなる一方で、対策が遅れているとの批判もある。トレーディング企業の膨張を止めるにはもう遅すぎるのかもしれない。いずれかの企業がもし倒産するようなことがあれば市場への大ダメージとなるのは間違いなさそうだ。

記事(外部サイト)

https://www.ft.com/content/9439108d-4fe3-4fc2-b040-da9412f1ba0b

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